鉄道軌道に関する研究

Ⅳ. まくらぎ間隔が軌道作用力に及ぼす影響

概要

まくらぎ間隔の違いによるレール曲げモーメント(曲げ応力)とまくらぎ下作用力それぞれについて解析を行い,その影響について検討した.具体的には走行車輪・レール・まくらぎ・パッド類から構成される車輪・軌道連成振動モデルを用い,まくらぎ間隔の違いが結果に及ぼす影響を数値実験により調べる.また,比較のため実際の軌道で測定されたまくらぎ間隔のデータを用いて,一般的なバラツキを有するまくらぎ間隔についても同様の解析を行い,比較検討した.

1. はじめに

 Ⅰ.では,軌道の波動透過率を目的関数として,最適化されたまくらぎ間隔を求めた.また,Ⅲ.では,軌道の定点調和加振や走行車輪・軌道連成解析を通し,まくらぎを最適配置した場合,pinned-pinnedモードに対応する共振振幅が低減でき,その結果,レールに起因する騒音も抑制可能であることを確認した.
 なお,レールの曲げ応力やまくらぎ下の作用力は,レールの寿命や道床沈下に影響を及ぼす.まくらぎ配置にバラツキや不均一性が存在する場合,特にまくらぎ間隔の長い区間において,レールの曲げ応力やまくらぎ下圧力が増大するため,これらが軌道状態に影響を及ぼすことが懸念される.しかしながら,まくらぎ配置の違いが具体的にどの程度影響し得るのかについてはこれまで詳細に検討されてこなかった.
 そこで,まくらぎ間隔の違いによるレール曲げモーメント(曲げ応力)とまくらぎ下作用力それぞれについて解析を行い,その影響について検討する.具体的には走行車輪・レール・まくらぎ・パッド類から構成される車輪・軌道連成振動モデルを用い,まくらぎ間隔の違いが結果に及ぼす影響を数値実験により調べる.また,比較のため実際の軌道で測定されたまくらぎ間隔のデータを用いて,一般的なバラツキを有するまくらぎ間隔についても同様の解析を行い,比較検討する.

2. 解析条件

 Ⅲ.に用いた走行車輪・軌道連成解析モデルを対象とする.また,連成解析では,やはりⅢ.と同様に,レール頭頂面に凹凸を設定している.レールは50kgNレール,レール1本当りのまくらぎ質量は100kg,軌道パッドとまくらぎ下パッド(道床)のバネ定数はそれぞれ110,および50MN/mと設定した.
 まくらぎ間隔は60cmを基準とし,最適配置では55cmと65cmの区間をそれぞれ5区間ずつ設けたものを1ユニットとして,それを繰り返し設置している.また,Ⅲ.に示した実軌道におけるまくらぎ間隔のバラツキに基づき,それを平均まくらぎ間隔60cmに補正したものを作成した.
 軌道は,まくらぎ200本から構成される有限長モデルで与え,レール曲げモーメントは96番~105番スパン中央での値を評価した.また,まくらぎ下作用力は,96番~105番まくらぎを対象に求めた(図1).なお,車輪走行速度は20m/sと,30m/sの2ケース設定した.

図1 軌道作用力の評価点

3. 解析結果

 均一なまくらぎ配置,最適配置,バラツキのある配置の各々について求めた曲げモーメントとまくらぎ下圧力を,走行速度毎に求めた結果を図2~13に示す.なお,図は走行車輪位置を横軸にしてプロットしたものである.
 なお,レール曲げモーメントの最大値は,均一なまくらぎ配置,最適配置,バラツキのある配置の各々に対して,それぞれ13.1, 13.9, 13.5 kN・m (走行速度20m/sの場合),13.4, 13.9, 13.9 kN・m (走行速度30m/sの場合)であった.走行速度の増加と共に,まくらぎ間隔の違いがレール曲げモーメントに及ぼす影響は低減される傾向にある.なお,走行速度20m/sの場合,均一配置での最大曲げモーメントに対して最適配置では6%,バラツキのある配置で3%程度大きめとなっている.また,30m/sの場合では,どちらのまくらぎ配置も4%程度大きめとなっている.20m/sの場合,最適配置での曲げモーメントが幾分大きめとなってはいるものの,より曲げモーメントが大きくなる30m/sの場合では,実軌道に存在し得る程度のバラツキを有するものとで差異は認められない.
 まくらぎ下作用力の最大値は,均一なまくらぎ配置,最適配置,バラツキのある配置の各々に対して,それぞれ29.8, 31.4, 31.1 kN (走行速度20m/sの場合),29.3, 30.6, 30.2 kN (走行速度30m/sの場合)となった.レール曲げモーメントとは逆に,速度と共に最大値がわずかに減少する傾向が認められる.なお,走行速度20m/sの場合,均一配置での最大まくらぎ下圧力に対して最適配置では5%,バラツキのある配置で4%程度大きめとなっている.また,30m/sの場合では,それぞれ4%および3%程度大きめとなっている.バラツキを有する軌道に比べて,最適配置の場合わずかに大きめの値となってはいるものの,有意な違いは認められない.

4. おわりに

 まくらぎ配置の違いが軌道作用力に及ぼす影響について,走行車輪・軌道連成解析を通して検討した.具体的には,最適なまくらぎ間隔を有する軌道,均一なまくらぎ間隔を有する軌道,および実際の軌道で測定されたデータに基づいて設定したランダムなバラツキをもつ軌道を対象とした.
 最適化したまくらぎ間隔を有する軌道では,まくらぎ区間中央部の曲げモーメント,まくらぎ下の作用力共に,均一なまくらぎ間隔を有する軌道に比べ大きめの値を示した.しかし,実際の軌道データに基づいたランダムなバラツキを有する軌道と比較すると,有意な差は認められなかった.したがって,最適化したまくらぎ間隔を有する軌道の作用力は,通常の軌道と同等程度であり,レールの疲労破壊や道床沈下等への影響はほとんど無いものと考えられる.

図2 レール曲げモーメント(均一まくらぎ配置,車輪走行速度20m/s)

図3 レール曲げモーメント(最適まくらぎ配置,車輪走行速度20m/s)

図4 レール曲げモーメント(バラツキを有するまくらぎ配置,車輪走行速度20m/s)

図5 レール曲げモーメント(均一まくらぎ配置,車輪走行速度30m/s)

図6 レール曲げモーメント(最適まくらぎ配置,車輪走行速度30m/s)

図7 レール曲げモーメント(バラツキを有するまくらぎ配置,車輪走行速度30m/s)

図8 まくらぎ下作用力(均一まくらぎ配置,車輪走行速度20m/s)

図9 まくらぎ下作用力(最適まくらぎ配置,車輪走行速度20m/s)

図10 まくらぎ下作用力(バラツキを有するまくらぎ配置,車輪走行速度20m/s)

図11 まくらぎ下作用力(均一まくらぎ配置,車輪走行速度30m/s)

図12 まくらぎ下作用力(最適まくらぎ配置,車輪走行速度30m/s)

図13 まくらぎ下作用力(バラツキを有するまくらぎ配置,車輪走行速度30m/s)