鉄道軌道に関する研究

Ⅲ. まくらぎ配置がレールの振動・騒音特性に及ぼす影響

概要

まくらぎ配置がレールの振動,およびそれに起因して発生する騒音に及ぼす影響について検討した.具体的には,レールの定点調和加振と走行車輪・軌道連成解析を通し,まくらぎ間隔の不均一性によるレール振動・放射音の低減効果を調べた.等間隔のまくらぎ配置の他に,実軌道におけるバラツキを設定した場合,および既往の研究で得られた最適なまくらぎ配置とした場合を対象として,100Hz以下の低周波数域における共振と,800Hz付近のpinned-pinned共振にまくらぎ配置が及ぼす影響を検討した.

1. はじめに

 Ⅱ.に述べたとおり,まくらぎ間隔が非周期性を有する場合,軌道の共振振幅の期待値は低減される.よって,まくらぎ間隔の不均一性の積極的導入が軌道系の振動・騒音低減に対して有効に作用し得るものと期待される.なお,Ⅱ.では共振周波数下での振動振幅低減効果について主に検討した.しかし振動や騒音特性は,ある範囲の周波数域全体にわたり評価することが望ましい.
 そこで以下では,pinned-pinned共振を含む概ね1000Hz以下の周波数域を対象に加振応答解析を実施し,まくらぎ配置の違いが振動応答の周波数特性に及ぼす影響について調べる.その際に,実軌道で測定したまくらぎ間隔をバラツキとして設定し,等間隔および最適配置の各ケースと合わせ,振動低減効果を比較検討する.
 また,実際の軌道では,レールとその上を走行する車輪との連成により振動が発生する.そのため,定点加振に加え走行車輪・軌道連成解析を行い,その下でまくらぎ配置がレールの振動特性に及ぼす影響を調べる.さらに,レールを音源とする騒音成分についても評価し,音圧レベルの低減に有効なまくらぎ配置について検討する.

2. 軌道モデル

 本解析において,軌道は図1のようなN個のまくらぎによりレールが離散支持された有限長モデルで与える.レール支持構造は,軌道パッド・まくらぎ・まくらぎ下パッド(または道床)より構成されるものとする.パッド類にはダッシュポットを設け減衰を考慮している.また,走行車輪とまくらぎは質点,レールはTimoshenkoばりでモデル化している.
 定点加振応答解析の場合は,走行車輪は考慮せず,軌道中央を一定振動数ωで調和加振し,加振力Pの作用点におけるレールの定常振動応答を求める.一方,走行車輪・軌道連成解析では,レール上に固定された観測点における時刻歴応答を時間域解析により求める.また,レール振動に起因する騒音の評価の際には,レール全域より放射される音圧を軌道近傍の観測点1点で評価する.

図1 解析モデル

3. 定点加振応答解析

3.1解析条件

 図2のように十分に長い軌道モデルの中央付近におけるレールのまくらぎ支持点中央を調和加振し,加振点のたわみ応答振幅を求める.ここで対象とするまくらぎ間隔は不均等であるあるため,加振位置によって応答が異なる.そこで図3に示すように,軌道中央付近の11区間のレールスパンに対して加振点を1番から11番まで設定し,これらの加振点における応答振幅の最大値を周波数毎に求める.
 レールは50kgNレールを想定し,PCまくらぎはレール1本当たり100kgの質点で与え,軌道パッド,まくらぎ下パッドのバネ定数をそれぞれ110, 30MN/mと設定した.
 レール端からの反射波が無視でき無限長レールと同じ振動特性が得られるよう,軌道モデルの長さは応答を確認の上234m(360ユニット)とした.また,パッド類は複素剛性として減衰を設定した.

図2 定点調和加振における解析条件

図3 軌道中央付近の加振点位置

 解析において,まくらぎ配置は,等間隔(l=65cm), 2箇所の線区における実測データに基づいて生成した10ケース(まくらぎ360区間より成るH1~5,U1~5),および波動透過率の低減に有効な最適化軌道の合計12ケースを対象とした.
 なお,最適なまくらぎ配置は,pinned-pinnedモード周波数近傍における軌道内波動透過率低減を目的に得られたもので,まくらぎ10区間中と配置したものである.全軌道域はこれを36ユニット繰返し配置して与えている.また測定データは,実際に敷設されている直線ロングレール区間(H-線およびU-線)でのまくらぎ間隔を約1kmにわたって測定したものである.両線区のまくらぎ間隔の度数分布を図4,図5に示す.何れも平均まくらぎ間隔は66cm程度となっている.
 ちなみに,両測定データを対象に,まくらぎ間隔のずれの異なる2スパン間の相関係数を求めると,隣接区間ではH-線で-0.45,U-線で-0.20であった.一方,それ以遠のスパン同士では0.1以下となり,ほとんど無相関となっており,Ⅱ.に示した式(10)と符合する結果を得た.

3.2 解析結果

 H-線およびU-線の周波数-最大応答振幅関係を,まくらぎを等間隔に配置した場合と最適配置の場合と合わせて,図6に示す.なお,H-線およびU-線の結果は,各々の5ケース(5種類のバラツキ)における最大応答振幅の平均値を示したものである.
 等間隔にまくらぎ配置した場合,70, 320, 860Hz付近において共振応答の卓越が認められる.70Hzの共振は,レールとまくらぎが大きく振動するモードに対応している.また,170Hz付近で逆共振が認められる.これは,70Hzにおける定在波モード周波数を下端とする分散曲線の上方バンド端における定在波モードに対応している.一方,320, 860Hzは主にレールが振動する波動モードの上下バンド端における定在波モードに対応するものであり,860Hzの共振はpinned-pinnedモードに相当する[1].
 図より,低周波数域では,すべての軌道ケースで応答に大差ないことが確認できる.これに対して,H-線およびU-線の両ケースにおけるpinned-pinned共振振幅が,等間隔の場合に比べ約1/10に減少していることがわかる.さらに最適化軌道においては,最も顕著な共振振幅の低減効果が認められる.pinned-pinned共振モードにおけるレールたわみ形状は,まくらぎ1区間を半波長とするものであり,まくらぎ間隔の変化に鋭敏であるものと考えられる.一方,それより低い周波数域における定在波モードは,より長い波長で特徴付けられ,まくらぎ間隔の影響をほとんど受けないため,以上のような結果になったものと思われる.

図6 周波数-最大応答振幅

4. 車輪走行時の振動応答特性

4.1 解析条件

 対象とする走行車輪・軌道連成モデルを図7に示す.解析では軌道中央付近の観測(軌道中心の左側右側)での時刻歴応答変位加速度を求めた.車輪質量を700kg,車輪作用荷重を68.6kNとした.車輪走行速度cは一定とし,車輪・レール間接触バネ定数はであり,無減衰としている.
 まくらぎ配置は定点加振同様に,等間隔(l=65cm), H-線,U-線での測定結果に基づき設定したH1~5,U1~5,および最適化軌道の合計12ケースを対象とした.またレール頭頂面には図8に示す様な凹凸を設定した[2, 3].

図7 車輪・軌道連成モデル

図8 レール頭頂面凹凸の設定例

4.2 周波数--応答変位加速度の関係

 各観測点におけるレールたわみ時刻歴応答加速度をフーリエ変換し,周波数-応答変位加速度の関係を求めた.観測点R1-5とL1-5での最大応答の結果を図9に示す.なお,図は1/3オクターブバンドで平滑化した結果である.また,H-線およびU-線の結果は,まくらぎ配置5ケースの平均値となっている.
 低周波数帯においては,何れのケースにおいても応答に大差が見られない.一方,800Hz付近の共振周波数においては,等間隔配置に対する応答が最大値を示している.H-線およびU-線の両ケースでは,等間隔の場合より応答が小さくなってはいるものの,その低下量は比較的小さい.一方,最適配置の場合は他ケースと比較してピークの低下が明瞭に現れており,定点加振の場合と同様にpinned-pinned共振の低減に対する有効性が認められる.

図9 周波数-応答変位加速度

4.3 車輪走行速度が振動特性に及ぼす影響

 車輪走行速度が振動応答に及ぼす影響を確認するため,速度c=30m/sの場合に加え20および60m/sの2ケースに対しても応答解析を行った.等間隔配置の場合に対して,周波数と応答変位加速度の平均値との関係の走行速度による違いを調べた結果を図10に示す.
 まず,800Hz近傍におけるpinned-pinned共振を見ると,共振周波数は走行速度によらず一定であることが確認できる.これは言うまでもなく,当該共振モードが軌道構造にのみ依存していることによる.ただし,共振振幅は走行速度と共に増大する傾向が認められる.
 次に,100Hz以下の低周波数域における共振応答について速度の影響を確認する.c=30m/sのケースのみ,50Hz付近に明瞭な卓越応答が認められる.この周波数は走行車輪がまくらぎを通過する際の周波数(約46Hz)に概ね一致している.図6に示したとおり,当該軌道の共振周波数は70Hz付近に存在する.ただし,これに車輪が付加された系では,連成下での共振周波数は幾分低下する.本解析条件において,車輪・軌道連成下の共振周波数は約50Hz前後であり,30m/sでの走行時にパラメータ共振[4]が発生したものと考えられる.
 ここではまくらぎを等間隔配置した場合のみ示したが,他のまくらぎ配置の場合においても同様の傾向が得られた.ただし,走行速度によらず,最適配置に対してpinned-pinned共振振幅の低減効果が一様に認められた.

図10 走行速度が振動応答加速度に及ぼす影響

5. 車輪走行時の騒音特性

 列車走行時の騒音対策は重要な課題の一つである.以下では,前節と同じく走行車輪・軌道連成解析を通して,まくらぎ配置が列車走行時の騒音に及ぼす影響を検討する.なお,鉄道における騒音源は,車輪振動や列車空力音などの他に,レールやまくらぎ振動により発生するものなどがある[5, 6].本研究では,車輪走行下で発生するレール曲げ振動に起因するレールからの放射音に着目する.

5.1 レール振動に起因する騒音の評価

 レール振動により発生する音場を音圧表現すると,受音位置で観測される音源(レール)全体からの音圧総量は次式で与えられる[5, 7].

ここで,αは音速・空気密度に依存する係数,vはレール断面形状に依存する放射音波に関する係数,はある音源位置xにおけるレールの振動振幅,rは音源と観測点との距離である.
 本研究では,まくらぎ配置の違いがレール振動に関する騒音特性に及ぼす影響を相対音圧レベルにより評価する.等間隔のまくらぎ配置の場合を基準として,式(1)より各まくらぎ配置の下での相対音圧レベルを次式で定義する.

ここで,はそれぞれ不均一および均一なまくらぎ間隔を有する軌道に対する連成応答により求められるものである.

5.2 解析条件

 各種物性値および軌道条件等は4.と同様に設定した.観測点は軌道中央からレール直角方向に5mの位置に設置されているものとする.なお,その高さはレールと同一とした.また音源に関する積分は,レールをはり要素により離散化した際の全節点における変位時刻歴応答より数値的に求めた.軌道のまくらぎ配置は等間隔(l=65cm), 実測データに基づいて生成した28ケース(H-線1~14,U-線1~14)および最適配置軌道の合計30ケースを対象とした.

5.3 周波数-相対音圧レベルの関係

 相対音圧レベルの評価に当り,まず全節点におけるレールたわみの時刻歴応答をフーリエ変換し,周波数--変位振幅関係を求めた.その結果を用いて,観測点での音圧の総量を評価した.
 まくらぎ配置が異なる軌道に対する周波数-相対音圧レベルの関係を図11に示す.なお,H-線およびU-線の結果は,各々14ケースの平均値となっている.まくらぎ間隔がバラツキを有するケースでは,100Hz以下の周波数域において相対音圧が増減しており,[7]で指摘されているように軌道の不均一性が騒音増幅に至る可能性を追認することができる.一方800Hz付近のpinned-pinned共振周波数近傍においては,最適配置の場合において当該共振周波数域で1dB程度の騒音低減効果が得られている.
 前述のとおり,低周波数域の共振に起因する相対音圧レベルの変動は,車輪・軌道連成系の共振に関するものである.当該応答に対応する軌道振動モードは,レール・まくらぎの比較的大きな振動で特徴付けられるものであり,パッド類の伸縮を伴う.したがって,レール支持構造を調整することである程度低減可能と考えられる.一方,pinned-pinned共振に起因するものは,まくらぎ位置を節とするモードで与えられるため,まくらぎ間隔にのみ依存する.

図11 まくらぎ配置が相対音圧に及ぼす影響(走行速度30m/s)

5.4 車輪走行速度が騒音特性に及ぼす影響

 車輪が速度20m/sおよび60m/sで走行する場合の解析を行った.解析結果を図12, 13に示す.c=30m/sの場合と同様に,まくらぎ間隔がバラツキを有するケースでは,低周波数域における相対音圧レベルにおいて等間隔配置の場合からの増減が認められる.一方,800Hz近傍のpinned-pinned共振においては,H-線,U-線および最適配置の何れのケースに対しても音圧レベルが低下している.特に最適配置の場合,車輪走行速度によらず低減効果が認められ,その有効性が窺える.
 なお最適配置の軌道では,低周波数域の相対音圧に走行速度によらず2つのピークが認められる.ピーク周波数は走行速度の増加と共に高周波数側へ移動しており,最適化軌道を構成する短いまくらぎ間隔の区間と長い間隔の区間それぞれにおける共振の影響と考えられる.

図12 まくらぎ配置が相対音圧に及ぼす影響(走行速度20m/s)

図13 まくらぎ配置が相対音圧に及ぼす影響(走行速度60m/s)

6. おわりに

 まくらぎ配置の違いがレール振動・騒音の周波数特性に及ぼす影響について調べた.まくらぎ配置には,等間隔のもの,実測データに基づいたバラツキを設定したもの,および最適配置のものの3ケースを検討対象とした.
 まず,定点加振応答解析により振動応答特性を調べた.その結果,860Hz近傍のpinned-pinned共振応答に対して,最適配置による明瞭な振動低減効果が認められた.
 次に,走行車輪・軌道連成系を対象にまくらぎ配置が振動特性に及ぼす影響を検討した.低周波数域ではまくらぎ配置の違いによる差異はほとんど認められなかったものの,pinned-pinned共振モードについては定点加振の場合同様,最適配置において低減効果が確認された.また,低周波数域の共振応答が車輪走行速度依存性を有し,車輪のまくらぎ通過周波数が車輪・軌道連成系の共振周波数に一致した場合に発生するパラメータ共振の発生を確認した.
 最後にまくらぎ配置が車輪走行で惹き起こされるレール騒音に及ぼす影響を検討した.その結果,低周波数域の共振に関する騒音についてはまくらぎ間隔にバラツキを導入することで増加し得るものの,pinned-pinned共振に関するものについてはある程度の低減効果が認められた.特に最適配置の場合,当該効果が車輪走行速度によらないことを確認した.
 以上より,まくらぎを最適配置した軌道がpinned-pinned共振に起因する振動・騒音の低減に有効に作用することがわかった.

参考文献

[1] 阿部和久,古屋卓稔,紅露一寛 : まくらぎ支持された無限長レールの波動伝播特性,応用力学論文集,10, 1029-1036, 2007.
[2] 阿部和久,鈴木貴洋,古田 勝 : 軌道振動解析におけるレール頭頂面の凹凸形状の推定,応用力学論文集,3, 107-114, 2000.
[3] 阿部和久,紅露一寛 : レール継ぎ目部のモデル化と動的応答に関する研究,鉄道総合技術研究所委託研究報告,2005.
[4] Nordborg, A. : Parametrically excited rail/wheel vibrations due to track support irregularities, Acustica, 84, 854-859, 1998.
[5] Thompson, D.J. : Railway noise and vibration, Elsevier Ltd., 2009.
[6] 松浦義満,梶 容郎 : 車輪とレールの相互作用による振動と騒音に関する実験的研究,土木学会論文報告集,第278号,97-111, 1978.
[7] Remington, P.J. : Wheel/rail rolling noise, I: Theoretical analysis, J. Acoust. Soc. Am., 81, 1805--1823, 1987.