本研究では,まくらぎ間隔のバラツキを意図的に導入・管理することによる新たな軌道振動低減法の理論的検討を目的とする.まず,軌道振動低減策の観点から,最適なまくらぎ配置を求める.次に,実際の軌道に存在するまくらぎ間隔のバラツキや,最適まくらぎ配置を設定した軌道を対象に,定点加振解析と走行車輪との連成応答解析を行い,まくらぎ配置の違いがレール振動やそれに起因する騒音に及ぼす影響について検討する.また,まくらぎ配置の違いがレールの曲げモーメントやまくらぎ下面圧力の変動に及ぼす影響について調べる.
鉄道軌道は,まくらぎによりほぼ一定間隔で支持されているため,その動特性は周期性を反映したものとなる.周期波動場の際立った特徴は,波動モードが存在しない周波数帯(バンドキャップ)を持つことにある.一般に卓越応答はバンドギャップ端に存在し,定在波モードを形成する.例えば,まくらぎ締結位置を節とする共振モード"pinned-pinned共振"は,レールにおける主要な定在波モードの一つであり,輪重変動や軌道振動に大きく影響を及ぼす.そのため,軌道振動低減には,これら共振モードの抑制が効果的であると考えられる.
実際の軌道において,まくらぎ間隔は決して均一ではなく,ある程度のバラツキを持つ.このバラツキの存在により,上述のpinned-pinned共振振幅は減少する.このことから類推して,まくらぎ間隔のバラツキの存在は,一般に振動低減に有効であると考えられる.
また,一部に非周期部を有する軌道系の波動透過解析[1]を行うと,バンドギャップ近傍の周波数域での波動透過率が低減され,バンド端が不明瞭になる.周期性を崩すことで明確なバンドギャップが消滅するため,卓越応答も不明瞭となる.前述のpinned-pinned共振も,バンドギャップ端の定在波モードの1つであるため,まくらぎ間隔のバラツキの存在によって,明瞭な共振点が消滅したと解釈することができる.
なお,まくらぎ間隔のバラツキは,軌道保守上特段の障害となっていないという事情もあり,これまで注目されて来なかった.我国では,所定距離区間内のまくらぎ本数が規定されているに過ぎず,実際にどの程度のバラツキを有しているのかも把握されていない.しかし視点を変えると,まくらぎ間隔のバラツキの存在は,上述のように振動低減や軌道破壊の抑制,ひいては軌道保守の省力化に極めて有効であると考えられる.
以上の点を踏まえ,本研究では軌道における主要な共振モードに焦点を絞り,まくらぎ間隔のバラツキを意図的に導入・管理することによる新たな軌道振動低減法について理論的検討を行い,その実現可能性について探ることを目的とする.
[1] Abe, K., Kikuchi, A. and Koro, K. : Wave propagation in an infinite track having a irregular region, Noise and Vibration Mitigation for Rail Transportation Systems (Proc. of IWRN), T. Maeda et al. (Eds), 71-79, 2012.
本研究は科研費(24560578)の助成を受けたものである.ここに記して謝意を表する.