鉄道軌道に関する研究

Ⅱ. まくらぎ間隔のバラツキが軌道共振振幅の統計量に及ぼす影響

概要

まくらぎ間隔のバラツキが軌道の共振特性に及ぼす影響について検討した.調和加振による軌道振動応答を対象とし,軌道には減衰を設定して十分に長い有限長軌道をモデル化し数値解析を行った.共振モードとしては,各まくらぎ位置を節とするレールの定在波モードである,pinned-pinnedモードを対象とした.当該モードに対して,各まくらぎ位置が共振振幅に及ぼす影響について調べた.また,各まくらぎ位置のずれに関する共振振幅の一次および二次微分係数を求めた.その結果に基づき,摂動法に基づく共振振幅の期待値や分散の評価を試み,その適用可能性について検討した.

1. はじめに

 離散まくらぎ支持されたロングレールは,周期構造と見なすことができる.この周期性により,軌道内を伝播する波動モードのバンド構造は,ストップバンドとかバンドギャップと呼ばれる如何なる伝播モードも存在し得ない周波数帯を有する.特に,それらのバンド端に存在する定在波モードは軌道の振動特性を支配するため,バンド構造の把握は重要である.
 しかし一般に,まくらぎ配置は必ずしも等間隔ではなく,このバラツキは軌道の振動特性に何らかの影響を及ぼすものと考えられる.例えば,Wu and Thompson [1]は数値解析を通して,pinned-pinnedモードの振幅がまくらぎ間隔のバラツキによって抑制されることを見出している.また,Heckl [2]は,騒音低減の観点からまくらぎ間隔のバラツキの影響を検討し,1200Hz以下の転動音成分を抑制し得ると述べている.また,Ⅰ.では,前述のとおり軌道内を伝播する波動エネルギーの透過率を目的関数としたまくらぎ配置の最適化を試み,それがpinned-pinnedモードの振幅低減に有効であることを見出した[3].
 これらの研究では,まくらぎ間隔による周期性に関する乱れが振動・騒音低減に有効に作用することが示されている.周期構造の乱れにより,そこに存在していた定在波モードが消滅することを考えると,この結果は一見当然のように思われる.しかし一方で,周期構造にバラツキが存在すると,エネルギーの局所化が発生し,むしろ増幅を受ける恐れもある.Nordborg [4]は,まくらぎ間隔と支持剛性のバラツキにより,比較的低い周波数域の応答が増幅され得ることを指摘している.したがって,ある統計分布に従うバラツキの存在が,果たして共振振幅の統計量にどのように影響するのかを吟味することは有用と考えられる.
 軌道内に設定した具体的なバラツキと振動応答との関係は,数値シミュレーションにより直接求めることができるが,振動応答がまくらぎ配置のバラツキが有する統計量にどのように依存するのかは,必ずしも明らかでない.このような関係を把握することは,軌道設計と維持管理の面で有用と考えられる.
 バラツキを含むすべての軌道状態が一旦確定すれば,数値解析によりその軌道の動特性を知ることができる.しかし,期待値や分散のような統計量をこのような直接数値解析より得るためには,モンテカルロシミュレーションのように,極めて多数の数値解析を実行することが不可欠であり,自ずと計算負荷は増大する.したがって,効率化のためには,摂動法のような数学的手法の援用が有効になることが期待される.Oscarsson [5]は列車・軌道連成応答にバラツキの統計量が及ぼす影響について,一次の摂動法に基づき議論している.ただし,一次摂動ではバラツキが応答の期待値に及ぼす影響を評価し得ないので,そのような量を知るためにはより高次の摂動項を考慮する必要がある.
 ここでは,まくらぎ間隔のバラツキが軌道の共振特性に及ぼす影響を,振動低減の観点から検討する.その際に,調和加振を受ける軌道の定常応答を解析対象とする.解析において,軌道は多数のまくらぎにより離散支持された十分に長い有限軌道によりモデル化する.その下で,各まくらぎ位置のずれがpinned-pinned共振に及ぼす影響を調べる.その結果より,応答振幅の個々のまくらぎ位置に関する微分係数を数値微分により求める.さらに,ある確率密度関数に基づきまくらぎ配置にバラツキを設定した軌道モデルを多数生成し,それらの直接振動応答解析結果から,まくらぎ間隔のバラツキの分散と振動振幅の期待値と分散との関係を求める.その結果に基づき,摂動法による評価の適用可能性について検討する.

2. まくらぎ位置とその間隔との統計的関係

 本研究では,まくらぎ配置のバラツキをまくらぎ位置のバラツキにより表現する.しかし,もし実軌道においてバラツキに関するデータを得ることがあるならば,個々のまくらぎの位置を測定するのではなく,まくらぎ間隔を測ることになるであろう.したがって,実際にはまくらぎ間隔のバラツキに関する統計データがまずは得られることとなる.そこで,まくらぎ間隔とまくらぎ位置のバラツキに関する統計量の関係について,以下に導いておく.

図1 軌道モデル

2.1 まくらぎ位置とまくらぎ間隔

 N本のまくらぎから成る軌道について考える.まくらぎは,図1のように左端から順に番号付けされているものとする.図において,i番まくらぎ位置であり,i番とi+1番まくらぎ間の間隔である.これらの間には次式が成り立つ.

まくらぎ位置と間隔との統計的関係は,まくらぎの敷設方法により異なるものと思われる.ここでは2つの方法について検討する.まずCase1として, i番まくらぎの位置が確定した後,それに基づきi+1番まくらぎを設置する場合を考える.また,Case2として,ある区間全体にわたり,所定本数のまくらぎを概ね等間隔となるように同時に配置する場合を考える.

2.2 Case1における統計的関係

 Case1では,敷設過程において,i+1番まくらぎ位置は,がみたされるように決定される.この場合,次式が成り立つ.

ここで,L はまくらぎ間隔の平均値,i+1番まくらぎの位置に関するバラツキである.の期待値と分散がと与えられているものとする.また,個々のまくらぎのバラツキは独立であるものとし, for と仮定する.
なお,まくらぎ間隔のバラツキは次式で与えられる.

式(2),(3)より,以下の関係を得る.

従って, for となる.さらに,式(2)は次式のように書換えることができる.

for であるので,式(5)より次式を得る.

以上より,Case1では,まくらぎ位置の分散がまくらぎ番号に比例して増大することがわかる.

2.3 Case2における統計的関係

 この場合,は次式で与えられる.

ここで,Case1同様に for であるものとする.式(7)より,の期待値は明らかにとなる.
 式(7)を(1)に代入すると,第i番目のまくらぎ間隔が次式により与えられる.

よって,まくらぎ間隔のバラツキは次式で与えられる.

すると,期待値,分散,共分散は次式のように与えられることとなる.

 以上より,分散と共分散はまくらぎの敷設方法に依存することがわかる.通常我国において,まくらぎ配置は,ある区間に敷設するまくらぎ本数により規定されている.この条件下での敷設は上述のCase2に相当するので,まくらぎ間隔のバラツキは式(10)に従う.よって,以下ではCase2を前提に議論を進める.

図2 調和加振を受ける軌道

3. 共振挙動の摂動解析

 図2に示す様な,軌道の定点調和加振に対する定常問題を考える.この加振により,pinned-pinnedモードに相当する共振が卓越することとなる.このモードは走行車輪により励起され易く,振動・騒音の観点で重要な定在波モードの一つである.よって,ここでは当該モードに焦点を絞って議論する.
 レールたわみの定常振幅応答は,加振周波数と個々のまくらぎ位置とに依存する.よって,その値はこれらの関数として見なすことができる.この場合,振幅は等間隔のまくらぎ配置からのずれと,等間隔時の共振周波数からのずれとに関する摂動展開で表される.

ここで,A は加振点のたわみ振幅,は完全な周期軌道の共振周波数における振幅,は摂動係数である.また,は加振周波数f との差である.共振振幅は周波数に関して極値をとるので,次式が成り立つ.

式(11),(12)から,Aβに関する微分は次式で近似できる.

共振条件を式(13)に課すと,共振周波数のずれに関する式を得る.

Abe et al. [6]は,式(14)右辺第一項目が無視し得ることを見出している.すると,共振周波数β は次式により与えられる.

式(15)を(11)に代入して次式を得る.

式(15)より,共振周波数のまくらぎ位置に関する依存性は,二次より高次項で与えられることがわかる.式(16)より,共振振幅の二次近似は次式で与えられる.

式(17)より,振幅の期待値と分散の二次モーメント近似が次式で与えられる.

 式(18)の二次モーメント近似で得られる分散は,一次の摂動より得られるものに一致する.式(17)から計算される分散には,四次の項も含まれているが,そのような高次項の評価の正当性については,この後で検討する.

4. 解析例

4.1 解析条件

 以下では,まくらぎ間隔のバラツキがpinned-pinned共振応答に及ぼす影響について議論する.特に,共振振幅とまくらぎ配置のバラツキとの間にどのような関係が存在しているのかについて詳細に調べる.そのために,ある一つのまくらぎ位置にのみずれを与えた場合の,加振点共振振幅の変動を解析より求める.
 解析条件は図3に示すとおりである.50kgNレールを仮定し,レール1本当たりのまくらぎ質量は100kgとする.パッド剛性は軌道パッドとまくらぎ下パッドに対してそれぞれ=110MN/m,=30MN/mと設定した.レールはTimoshenkoばりでモデル化し,まくらぎは質点で与える.基準まくらぎ間隔は60cm (L=60cm)とし,まくらき360区間を離散化した.なお,パッド減衰は以下の複素剛性により与えている.

ここで,ωは円振動数,gは減衰係数であり,解析ではg=0.01(s/rad)と設定した.調和加振は,180番と181番まくらぎ間中央に設定している.まくらぎ配置の影響は,加振点の共振振幅に基づいて評価する.

図3 n番まくらぎ位置にずれを与えた軌道モデル

4.2 まくらぎ位置と応答振幅との関係

 図4は,まくらぎ位置のずれと共振振幅との関係を示したものである.図において,共振応答振幅An番 (n=181, 220, 260)まくらぎ位置のずれの関数として表示している.言うまでもなく,これらはまくらぎ番号について対称となる.例えば,180番まくらぎのずれの影響は,加振点に関して対称に位置する181番まくらぎのずれで評価できる.(-0.01m<<0.01m)の比較的小さなずれにおいて,共振振幅は下に凸の曲線を与え,ずれの存在により振幅が増大している.この結果は,完全な周期構造にわずかなずれを与えると,共振振幅が増幅し得ることを示唆している.なお,同様の現象は円筒形の杭列に水面波が入射する問題においても見出されている[7].また,まくらぎ位置のずれが共振振幅に及ぼす影響は,加振点からまくらぎまでの距離と共に減少する傾向にある.逆に,加振点に隣接するまくらぎ位置のずれが支配的であることがわかる.

図4 εAの関係

4.3統計的挙動の評価

 式(18)の適用可能性を検討するために,まくらぎ間隔が式(10)で規定されるガウス分布に従う場合について,数値実験を行った.なお,軌道モデルは4.1におけるものと同一である.
 図5,6は,それぞれおよびの関係を示したものである.なお,振幅の期待値と分散は,様々なに対して各々ばらつきを設定した1000個の軌道での解析結果より評価した.これらの図より,振幅の期待値と分散共に,まくらぎ間隔のバラツキの分散と共に最初は増大するが,その後減少して行くことがわかる.通常のまくらぎ間隔は,これらの図に示した範囲より大きなバラツキを有すると考えられるので,共振振幅の期待値はバラツキの存在により低減されることとなる.なお,実際の軌道で測定したまくらぎ間隔については別途述べる.また,分散は小さなバラツキに対しては比較的鋭敏となっているが,通常のバラツキレベルの下では,その度合いにあまり依存しないことがわかる.
 式(18)によるE(A)Var(A)の近似を図7,8に直線で示した.また,図5,6に示した数値実験結果も合わせてプロットしてある.図より,近似精度はの増加と共に低下することがわかる.2次の摂動近似の適用可能範囲は,の程度となっている.この値は,実際の軌道におけるまくらぎ間隔のバラツキが有する分散に比べてはるかに小さい.さらに,たとえ4次近似を用いたとしても,それは図7,8の2次成分にしか寄与し得ない.よって,実際の軌道に存在しているバラツキレベルでは,共振振幅の期待値と分散の評価に4次近似を用いることは本質的改善につながらない.以上より,本問題に摂動法を適用することは困難であり,モンテカルロシミュレーションの様な数値実験を実施せざるを得ないことが結論付けられる.

5. おわりに

 ここでは,まくらぎ間隔のバラツキが軌道の共振振幅に及ぼす影響について検討した.数値解析を通して,共振応答はまくらぎ位置の極わずかなずれに対して増幅し得るものの,通常存在するバラツキの下では,振幅の期待値・分散が低下することがわかった.また,摂動法による近似が適用可能なのは,極めて小さなバラツキに限定され,通常レベルのバラツキ下での適用は現実的でないことがわかった.

参考文献

[1] Wu, T.X. and Thompson, D.J. (2000), "The influence of random sleeper spacing and ballast stiffness on the vibration behaviour of railway track", Acustica, 86, 313-321.
[2] Heckl, M.A. (1995), "Railway noise-Can random sleeper spacings Help? ", Acustica, 81, 559-564.
[3] Batjargal, S., Abe, K. and Koro, K. (2012), "Sleeper spacing optimization for vibration reduction in rails", COSEIK J. Comput. Struct. Eng., 25(6), 569-577.
[4] Nordborg, A. (1998), "Parametrically excited rail/wheel vibrations due to track-support irregularities", Acustica, 84, 854-859.
[5] Oscarsson, J. (2002), "Dynamic train-track interaction: Variability attributable to scatter in the track properties", Vehicle Sys. Dyn., 37(1), 59-79.
[6] Abe, K., Shimizu, S., Aikawa, A. and Koro, K. (2011), "Theoretical study on a measuring method of rail axial stress via vibration modes of periodic track", WCRR2011.
[7] Duclos, G. and Clément, A.H. (2004), "Wave propagation through arrays of unevenly spaced vertical piles", Ocean Eng., 31, 1655-1668.