鉄道軌道に関する研究

Ⅰ. まくらぎ間隔の最適化による軌道振動低減

概要

軌道の共振抑制を目的に,まくらぎ間隔の最適化を試みた.そのために,軌道の最適化区間における波動透過率を目的関数とし,まくらぎ配置を設計変数とした最適化問題を考えた.解析モデルでは,レールをTimoshenkoばり,まくらぎを質点で与え,有限軌道両端に伝達境界を設定することで無限軌道を表現した.解析例を通し,最適なまくらぎ配置を求め,それが共振振幅の低減に有効であることを確認した.

1. はじめに

 レールのまくらぎ配置は軌道の振動特性に大きく影響を及ぼす.レールの振動を低減させることは列車の走行安定性,乗り心地,地盤振動,騒音等の様々な観点から非常に重要である.そのため,鉄道軌道のまくらぎ配置の影響に関する研究は重要である.
 なお,レールのまくらぎ間隔は一定ではなく,バラツキを有している[1].また,まくらぎ間隔とバラスト剛性のバラツキが軌道に及ぼす影響も検討されている[2, 3, 4].既往の研究[5]では,まくらぎ間隔が均一な軌道とある程度不均一な軌道について応答解析を行っており,まくらぎ間隔にバラツキがある方が軌道の共振点の応答振幅が小さくなるという結果が得られている.この結果より議論をさらに進めて,軌道に適切なまくらぎ間隔のバラツキを設定することができれば,列車走行時の振動がより効率良く低減され得ることが期待される.
 そこで本研究では,軌道の共振点の応答を抑えられるような最適なまくらぎの配置を理論的に検討する.レールはその断面寸法に比べ軌道方向に長く伸びた形状を有するため,長手方向への波動伝播が動的応答に大きく影響する.軌道のレール内を伝播する波動は軌道の動的応答を支配する.レール・まくらぎ軌道系における波動伝播モードがいくつかの基本特性を与えており,波動が伝播する周波数域であるパスバンドと伝播しないストップバンドが発生する.これらの境目のバンド端で共振周波数が存在しているので,バンド端付近の透過エネルギーを低減させることによって共振を回避できるものと考えられる.
 そこで本研究では,軌道内を透過する波動エネルギーを目的関数とし,まくらぎ間隔を設計変数で与える最小化問題を構築し解析を行う.また,波動透過解析や加振応答解析を通し提案手法の有効性を検討する.

2. 軌道のモデル化

 図1の様に左右にまくらぎ間隔の一様半無限周期区間を持つ軌道系を考える.その間に長さL(一定)のまくらぎ間隔最適化区間を設ける.当該区間は,n個のまくらぎ区間からなるものとし,各まくらぎ間隔を(i=1,…,n)で与える.このとき,次式が成り立つ.

図1 無限軌道における最適化区間の設定

 左より入射する伝播波動モードに対するエネルギー透過率を目的関数とした最適化問題を考える.図1の最適化区間から,左右/2の位置に半無限直線軌道を表現する伝達境界[6]を設けて解析を行う.このとき求解方程式は次式で与えられる.

ここで,は半無限軌道に等価なインピーダンス行列(伝達境界),は左半無限軌道内を右方向へ伝播する入射波動モードである.波動透過率Erは次式で与えられる.

3. まくらぎ配置の最適化

 ある周波数区間Ωの下で,次の目的関数の最小化問題を考える.

ここで,Λ,λはそれぞれLagrangeの未定乗数ベクトル,未定乗数である.
 次のJの変分について考える.

ここで,次の随伴問題を設定する.

すると最終的に次式を得る.

ここで,[1]は各成分が1の横ベクトルである.
 以上より,次式に基づきまくらぎ間隔の修正を繰り返し実行することで,最適配置を求める.

4. 解析例

4.1 解析条件

 レールは50kgNレールを想定する.PCまくらぎは,レール1本当たり質量100kgの質点で与え,軌道パッド,防振パッドのばね定数をそれぞれ110,30MN/mとする.最適化区間のまくらぎ間隔数を9,各まくらぎ間隔の初期値を=60cm, 左右の一様半無限周期区間のまくらぎ間隔を=60cmとした.最適化一回当たりの最大変化量を0.5cmとし,まくらぎ間隔の最小値を55cm,最大値を65cmに設定した.

4.2 解析結果

 一様なまくらぎ間隔の場合の透過解析結果を図2に示す.透過率が0となっているのは波動が伝播しないストップバンド,透過率が1となっているのがパスバンドである.パスバンド端の周波数(76Hz,173Hz,343Hz,942Hz,1036Hz)に定在波モードが存在しており,当該モードが共振により励起され易い.そのため,これらの周波数近傍における透過率の低減が,共振を抑制し得るまくらぎ配置につながるものと考えられる.なお,942Hzのモードは,まくらぎ位置を節とし,まくらぎ間隔を半波長とする,pinned-pinnedモードと呼ばれるレール振動モードである.これは,列車走行時に軌道内に励起され易い代表的なモードの一つである.
バンド端の周波数帯を対象に最適化を行った.特に効率よく低減された343Hzと942Hz付近を対象とした場合の透過解析結果を図3, 4に示す.また,343Hzと942Hz付近の周波数帯を同時に最適化の対象として得られた透過率-周波数の関係を図5に示す.対象とした両周波数帯とも透過率が低下しており,特に高周波数帯の方が大幅に低減されていることがわかる.

図2 周波数と透過率の関係(一様間隔)

図3周波数と透過率の関係(343Hz付近を対象とした場合)

図4周波数と透過率の関係(942Hz付近を対象とした場合)

図5周波数と透過率の関係(343, 942Hz付近を同時に対象とした場合)

4.3 まくらぎ区間数が最適化に及ぼす影響

 まくらぎ区間数が最適化過程に及ぼす影響を評価する.解析例として,942Hz付近を対象に,まくらぎ区間数が異なるケースにおいて最適化を行った.結果を図6に示す. なお,対象としたまくらぎ区間数は9, 10, 13, 16の4ケースである.いずれのケースにおいても,左半分のまくらぎ間隔が最短の55cm,右半分が最長の65cmに収束した.なお,初期のまくらぎ配置にランダムなバラツキを与えても,同じ配置に収束した.図6より,何れの最適区間数においても,942Hz付近の透過率が低減されており,まくらぎ区間数が異なる場合でも同様な結果が得られることがわかる.

図6透過率に最適化区関数が及ぼす影響(942Hz付近を対象)

5. 加振応答解析

5.1 解析条件

 感度解析により得られたまくらぎの最適配置が,実際に共振振幅の抑制に有効に作用するのかを,数値実験により確認する.ここでは,有限軌道をモデル化し,パッド類を複素バネで与えることで減衰を導入している.軌道中央スパンの中間点を定点調和加振して,定常応答を求める.軌道打ち切り端からの反射波の影響が無視できる程度に軌道長を設定するものとし,最適化区間(L=5.4m)を40区間分並べ,216mの軌道モデルを作成した.

5.2 解析結果

 一様まくらぎ配置,最適化したもの,まくらぎ間隔に正規分布に基づきバラツキを与えたものの3ケースについて解析を行った.周波数-振幅関係を図7に示す.まくらぎを等間隔に配置した場合は1000Hz付近で共振応答が卓越している.ランダムな配置においては,等間隔よりは応答が小さくなるものの,比較的大きな卓越応答が認められる.一方,最適化したまくらぎ配置の場合は,低周波数帯では他のケースと大差ないものの,1000Hz付近の応答は大幅に低減されており,特にpinned-pinnedモードに対して最適化の効果が顕著となることがわかる.
 500Hz以下の低周波数域におけるモードは,まくらぎ間隔に比べて波長が長くなるため,まくらぎ間隔の違いによる影響がほとんど認められない.これに対して,pinned-pinnedモードでは,モード波長がまくらぎ間隔に匹敵するものとなるため,まくらぎ間隔の差異が明瞭に現れる.その結果,まくらぎ間隔の最適化が有効に働くものと考えられる.

図7 まくらぎ配置が定点調和加振応答に及ぼす影響

6. おわりに

 本研究ではエネルギー透過率を目的関数,まくらぎ間隔を設計変数とした最適化問題を構築し,透過率の低減に有効なまくらぎ配置を求めた.まくらぎ間隔の最適化は,特に高周波数帯の透過率の低減に有効であることがわかった.さらに,一様まくらぎ配置とランダムな配置の場合と合わせ,加振応答解析を行った結果,最適化により1000Hz付近の共振が抑制可能であることがわかった.
 レール・まくらぎ軌道系における伝播モードの波長は,約1000Hz付近でまくらぎ間隔に匹敵するものとなるため,まくらぎ間隔の最適化はこれらの高周波数帯において有効となる.一方,100Hzより低い周波数での共振は,まくらぎの振動に支配されている.まくらぎ間隔を制御することにより低周波数での共振を低減させるのは困難であり,まくらぎ間隔に比べパッドの低剛性化の方がより効果的であると考えられる.以上より,まくらぎ間隔の最適化とパットの低剛性化とを組み合わせることで,振動低減に効果的な軌道構造が構築可能と考えられる.

参考文献

[1] Wu,T.X. and Thompson,D.J. : The influence of random sleeper spacing and ballast stiffness on the vibration behaviour of railway track, ACUSTICA, Vol. 86, 313-321, 2000.
[2] Oscarsson,J.: Dynamic train-track interaction: Variability attributable to scatter in the track properties, Veh, Sys. Dyn, Vol. 37(1), 59-79, 2002.
[3] Heckl,M.A. Railway noise-Can random sleeper spacing help?, ACUSTICA, Vol. 81, 559-564, 1995.
[4] Nordborg,A.: Parametrically excited rail/wheel vibrations due to track support irregularities, ACUSTICA, Vol. 84, 854-859, 1998.
[5] Abe,K., Shimizu,S., Aikawa,A. and Koro,K.: Theoretical study on a measuring method of rail axial stress via vibration modes of periodic track, Proc. of WCRR 2011, Lille, 2011.
[6] Abe,K., Kikuchi,A. and Koro,K.Wave propagation in an infinite track having an irregular region, Proc. of IWRN10, Nagahama, 2010.